鬼神、堕つ
「ふーっ💢ふーっ💢すっくなぁ……!💢💢💢」
組み付された身体。耳許に届く荒い息遣い。
眼前に迫る紅潮した顔を見詰め、鬼神──両面宿儺は呆れたようにため息を吐いた。
「……好きにしろ」
これ以上の抵抗は無意味だと悟り、そっと四肢の力を緩めて冷たい視線で相手を射抜く。
気が触れた女の奇行に付き合う気など毛頭無かったが、慣れない女体に呪力の操作すらままならない現状では言う通りにする他に手立ては無い。
「言われなくても好きにさせて貰うわよ💢💢💢」
興奮の絶頂といった様子で鼻息を荒くした万が手を伸ばすと、豊満に膨れ上がった両の乳房を乱雑に揉みしだく。
もにゅもにゅ、ぐにぐにと何が楽しいのか執拗に乳肉を蹂躙する姿を見て心底理解に苦しむ。
「……つまらん」
こんな女体にまで変化させて、何をするかと思えば、つまるところ性欲の発散である。
命の危機が及ばないのであれば、宿儺にとって心底どうでも良い行為であった。
──最も身体が元に戻り次第、容赦なく切り刻む腹積もりではあるが。
そんなことを考えながら、目を閉じて不愉快な感触を意識の外へと放り出そうとした時である。
「んっ……」
ふと、熱の籠もった声が喉から漏れ出して、それが自身の喉から放たれた物だと自覚するのに一瞬の惑いが生じた。
見遣れば先ほどまで獣のように不乱に乳房へ指を沈ませていた万の手付きが、今は狡猾な蛇の如くいやらしく蠢いている。
馴染みきっていない神経に未知の快感が生まれ、思考が鈍る。
次第に頰が紅潮していく感覚と共に、身体が熱を帯びていくのを自覚した。
(不愉快だ……)
まるで自分が本当に、これまで格下だと断じていた女子供に転じてしまった様で、思わず眉根を顰める。
その間も万はつつつ、とわざとらしく緩慢な動きで身体の側面をなぞり上げていく。
細指が円を描くように双丘を撫で、頂まで登り詰めたかと思いきや、また側面へと逃げて乳輪の際をさわさわと撫で上げる。
そうして数分──否、数十分にも渡る愛撫が、ねちねちと執拗に繰り返され、思わず額に青筋を浮かべた宿儺が声を荒げた。
「貴様、いつま──でぇっ♡」
「んふ♡」
ぴんっと乳首を弾かれて、思わず甘い声が漏れる。
再び自身の喉から放たれた雌のような声に羞恥が湧き、頰に朱が走った。
まさか本当に自身で女の真似事をさせられるとは思いもしていなかったため、思考が羞恥に囚われて本来の働きを果たせない。
「あらあらあらあら……随分と可愛らしい声を出すようになったわねぇ?♡」
「きっさまぁ……💢💢💢」
ギリッと歯を軋ませながら、視線で殺せるならそのまま射殺さん勢いで呪詛を吐いた。
しかし万は愉しげに妖しく微笑み、蠱惑的な唇を耳元に寄せると囁きかける。
ぴちゃりと熱い舌が耳朶をなぞり、ゾクゾクとした感覚が背筋を走り抜けた。
「好きよ宿儺……」
「やめろ……💢」
「愛してる……」
「不快だ……💢💢」
「私の愛を受け取って?」
「殺、」
続く言葉は生温い唇の中に呑み込まれた。
「ん──むぅぅううっ💢💢💢」
じゅるるっ、ぐじゅるっと音を立てながら唾液を啜り上げられる感覚に脳髄が痺れるような快楽を覚える。
嫌々と首を左右に振り乱して逃れようとするも、万の腕は獲物を捉えた蛇の如く絡みついて離そうとしない。
口付けとは到底呼べないような暴力的な接吻に意識が遠退くのを感じながら、それでも彼女の陵辱を受け入れるしかない自身が情けなくて仕方が無かった。
「ぷはっ──こっ、ころすぅっ💢💢💢」
「あはっ♡」
恍惚とした表情で口元から涎を垂らす万の姿を睨め付けながら、精一杯の怨嗟を送る。
元の姿に戻った時は、いっそ殺してくれと懇願する程の苦痛を与えた上で、呪霊の餌にしてくれよう。
そんな決意を秘めていると、万がふと自身の股間に手を伸ばした。
「まだまだ教えてあげるわよ。私の愛を」
(何だ……?こいつの股が光って……)
不穏な呪力の流れ。眩い光に瞳を細める。
彼女の手に握られた物体を見て、その輪郭を捉えた瞬間──全身を戦慄が駆け抜けた。
「──この飛天で、ね?♡」
「はぁっ……?♡」